ゲームは一日1000円まで (Syraのゲーム備忘録)
雨の中、わたしは泣きながら歩いていた。
道行く人は私を一瞬見るが、すぐに何も無かったかのように歩く。
向こうが追ってくる事は無かった。それだけ私のことは無関心で邪魔だったのだろう。
もうわたしが帰れる場所は無い。後は野垂れ死ぬだけだ。
何かを考える余裕は無かった。もう自分が立っているのか座っているのかすらわからない。
体温が低くなっていったのか、わたしはそのまま意識が遠くなっていった。
応接室に私は呼び出されていた。
こんなに改まって何の用だろうか。記憶してる限りではここまでかしこまって話をする事などこれまで無かったはずだ。
「入れ」
「失礼します」
部屋の中にはここに呼び出した人物、私の上司が座っていた。
「エレメーイ長官、お話とはなんでしょう?」
あまり時間をかけたくも無かったので、座って直ぐに私は聞いた。
「ナターリア、君の仲間の事だ。これを見てほしい」
長官は私に数枚の資料と写真を手渡した。
写真は5~6枚あり、そのいずれも銀髪の小さい女の子が写っていた。
一枚目はボケているが、恐らく隠し撮りしたものだろう。どこかの公園の砂場で遊んでいるようだ。
他にもテーマパークで撮影したのか、有名なキャラクターと家族とみられる男女が写っている写真もある。
そして、恐らくこの子のものである戸籍書類、医療関係の書類。そして幼稚園の入園書類まであった。
「…この女の子が、私の仲間、と?」
「この少女は能力所持者だ」
「…は?」
私は呆気にとられたように長官を見る。こんな小さい子が?
「名前はアレクサンドラ・ルキニーシュナ・マカロヴァ、年は4歳。周囲からはサーシャ、と呼ばれているようだ。数ヶ月前からこの周辺の無線通信にノイズが継続的に生じている事が報告されていた。それが、以前君が起こしたノイズと酷似していたようでな。我々に報告が来た。君もわかるだろうが、この年齢で能力を所持しているというのは前例がない。有効活用すればいずれ我が国の切り札として使えるようになる可能性もある。」
やっぱりか。こういう形で話すというからにはやはりそういう事なのだろう。
「…それで、この子をどうしろと?」
「まずは現地へ行き保護の必要があるか確かめて欲しい。そしてもし保護する必要が無かった場合でも、彼女を監視していて欲しい。君は我が国で能力に最も精通している人物だ。適任だろう。」
「…期間はいつから?」
「2週間後からだ。彼女の居住地はペルミ地方のスクスーン地区、クルシェスコフェ農村地帯にある村の一つだ。」
そう聞いて私は資料を落としそうになった。この国の国土は広い。車でも恐らく20時間かかるはずだ。
「は!?スクスーン!?ペルミですらまず遠いのにそんな所まで!?」
生まれも育ちもモスクワの私からしてみたら全く未知の場所であった。スクスーン?あー前に一回紀行番組で見たことあるわー、凄い田舎だなー、こんなところだと大変そうだなー、ここに生まれて良かった!とか思ってたのに。まさかそこに行く事になるなんて。
「資料を見てもらえばわかるが、二年前にヤロスラブリから家族総出で転居したようでな。理由は分からないがこのときに能力が既に発動していた可能性もある。」
「だからって、わざわざ私にペルミまで行けと?」
「逆に聞くが、向こうに手紙を送ってわざわざ此方へ来ると思うか?どうなるかも分からないのに?」
「それは・・・・そうですが・・・」
何も言い返せずにうなだれる。
「保護する場合はすぐにでも帰ってきて構わない。ただし観察の場合は無期限だ。だが帰りたいからといって誘拐とかはするなよ。バックに私たちが関わってると知れたら信用が失墜する。」
もともと信用なんてないでしょう、と言いかけ口をつぐむ。うなだれている私に長官は他のファイルをまとめ私に言葉を投げる。
「それではよろしく頼むよ。ああ、金の事なら心配はいらない。今日中に資金を振り込んでおくよ」
「…了解、しました…」
なんとか声を絞りそう返答する。長官はその表情を気にすることもなく部屋から出て行った。
しばらく呆然としていた私は大声で叫んだ。
「あああああんのハゲ長官ーーーーー!!掘られろおおおお!!」
その声は誰に届くはずもなく。ただむなしく部屋にこだまするだけだった。
(続く)