ゲームは一日1000円まで (Syraのゲーム備忘録)
2012/05/01
ホテルを午前8時に出発。現地の住居はもう確保してあると途中で連絡が来た。そういう手回しが早いのもあの上司の特徴だ。
8時間かかり現地に到着。
時差が4時間ある為、現地時間ではちょうど正午に到着。
現地でターゲットの観察を行う。銀髪のショートへア。アルビノなのだろうか?どちらにしても能力持ちであるから今後この世の中では暮らしにくい可能性もある。かつての私のように保護しなければならないかもしれない。
夜に住居を掃除中に警察2人が押し入る。私は怪しいらしく(笑)あからさまに賄賂を要求される。賄賂を渡すだけで済むかと思ったが、露骨に胸を触って来たので張り倒した。
口止めはしたので特に問題にはならないだろう。
翌朝。私は彼女に接触するために向かっていた。
今日も彼女は昨日と同じように自宅の前の砂場で何やら物を作っていた。違うのは手で持っているものがスコップではないことだ。一見すると枝に見えるが、青い色をして光っているようにも見える。
具現能力。無から物を生み出せる能力はそう仮称されている。この年での発現はロシア国内ではこれまで例がなく、能力自体の発現としても彼女が二例目だ。
一回深呼吸してから彼女に近づいていく。
「こんにちは。」
私は彼女に声をかける。彼女は少し驚いたようにこちらを見た後、思い出したように枝を後ろに隠し、そこから粒子のようなものが見えた。
「おねえさん…誰…?」
彼女は不安そうな顔でこちらを見つめる。
他人に能力を見られるなと釘をさされていたのかもしれない。
でも想定内だ。私は笑顔で続ける。
「大丈夫よ。私もあなたと同じ。私もね、同じ手品が使えるのよ。」
そういって私は手のひらに意識を集中させる。私の周りにある「光」を集め、砂場で作るお城のように少しずつ成形していく。
私は犬の形をした小さいおもちゃを具現化させた。
昨日小さい子の間で流行っているおもちゃを探していた時に出てきたものだ。
彼女の表情がみるみるうちに輝いていくのが分かった。
「わぁ…!お姉さんすごい…!」
私は手のひらのものから意識を戻す。するとすぐにおもちゃの複製はダイヤモンドダストのように粒子となって宙を舞い始める。それを眩しそうに見つめている彼女。
そしてしゃがみこんで同じ目線に立つ。青い綺麗な瞳を持つ子だ。
「私は、ナターリアっていうの。ターシャ、って呼んでくれると嬉しいわ。あなたは?」
彼女は頬を赤くしながらも小さな声で答える。
「…さぁしゃ…」
「そう、サーシャちゃんって言うのね。じゃあサーシャちゃん。私と…お友達になってくれるかしら?」
彼女は一瞬目を見開き、すぐに笑顔で頷いた。
それから1時間。私は彼女…サーシャと砂場で物を作ったり、具現能力の使いこなし方を教えたりしていた。
「そう、砂場で砂をどんどん上に乗せるみたいに。少しずつ少しずつ…」
サーシャは顔をしかめながらも、少し不恰好ではあるが、私が作ったようにおもちゃを作り上げた。
「そんな感じ、すごいわ!」
そう言って拍手をしてあげると彼女は照れくさそうに頬を紅潮させながらも嬉しそうだ。
もうそろそろ本題に入っても大丈夫だろうと判断した私は彼女に問いかける。
「そうそう、そういえば今お父さんとお母さんって家にいるかしら?」
「?…うん、いる!」
「そう。ちょっとお話をしたいのだけれど、大丈夫かしら?」
「だいじょうぶ…!いま、おねがいしてくる!」
そう言うと走って家へ向かっていく。私もバッグを持って追いかける。
玄関では、サーシャが男性の腕を引っ張ってこちらを指差している。家族写真に写っていた1人。
向こうはこちらを怪訝そうな顔で見てくる。まぁ当然だろう。この田舎で突然見覚えのない人物が来たらなおのことだ。
「何の…御用でしょうか?」
「こんにちは。私はナターリアと申します。これから少々、お話よろしいでしょうか?」
そういってFSBの身分証を見せる。
「…FSB…!」
「別に不利益のある話をするつもりではありません。サーシャちゃんの能力の正体が何か、気になりませんか?ルカ様?」
これで何の話をしに来たのかが分かっただろう。驚愕したような顔をした目の前の父親、ルカ氏はサーシャの肩を持って語りかける。
「…サーシェニカ…。これからお父さんたちは大事な話をするんだ。もう少し外で遊んでくれないか?今日のお昼はサーシャの好きなガルブツィーだから出来たら呼ぶよ。」
「?……わかった!」
そう言ってサーシャは外へ走っていった。それを見送ったルカ氏はこちらへ向き直り家の中を手で指した。
「…どうぞ、中へ。」
「ありがとうございます」
リビングに案内された私は2人と向き合って紅茶を飲んでいた。主人だけでなく夫人も同席する事になった。主人はルカ氏、夫人はアンナ氏というらしい。どちらも顔が強張っている。
「…そう緊張なさらず。何も悪い話を持ってきたのではないですよ?」
「…恐らく、こちらの事はもう調べ上げているのでしょう。しかし私たちはあなたの事を何一つ知りません。そんな状態で信じられるとでも?」
「まぁ、たしかに。では改めて。ロシア連邦保安庁中央機構分析局能力研究課所属のナターリア・エドゥアルドヴナ・アスカルノヴァと申します。以後お見知り置きを。」
改めて身分証を出しテーブルに置く。向こうがそれを本物と認めるのを見てから続ける。
「もうお分かりだとは思いますが、アレクサンドラちゃんの能力の事でお話に来ました。」
「…あの子の事は…どの程度調べているのですか…」
「ある程度の事なら。アレクサンドラ・ルキニーシュナ・マカロヴァ。ヤロスラブリ市で2008年7月3日に生まれる。2010年にモスクワ市立中央教育センター2030番学校附属幼稚園への入園が内定していたのにも関わらず辞退し、家族全員で現在の居住地へ移住。現在に至る。大病は無い、との事ですがお見受けした限り、アルビノではあるようですね。」
あってますよね?というふうに向こうを見る。何も反応がない限り合っているのだろう。そのまま続ける。
「2ヶ月ほど前に、このあたりで偵察任務にあたっている士官より、無線通信に不審なノイズが入るという報告を受けました。その発信元を追跡したところ、彼女が発信源であると特定されました。そして我々の所にはに調査の依頼が来たわけです。」
「…あの子のあれは…一体なんなのですか…」
ルカ氏は俯いて、そう聞いてくる。やはり親からでも得体の知れないなにかを持っている事は不安だったのだろう。
私はバッグの中から、別の資料を取り出し、向こうに見せる。電波障害が発生した時と通常時の波形の差異。能力で生成される物質の写真とその継続時間のグラフ。そして発動時と平常時のバイタルの違い。
「具現能力。私達は便宜上そう名付けています。まだ詳しい原理や発現となるトリガーは判明していませんが、現状だと空気中の光分子を固形化し、成形できるようです。私は、そのような未知の能力を研究し、必要ならば保護や監視を行う役割を持っています。」
保護、という言葉に反応しルカ氏は問いかけてくる。
「あの子は…保護…されるのですか…?」
「それが必要となるのなら」
「そんな…!」
突然立ち上がり、初めてアンナ氏が声を出す。その表情は怒りや悲しみに満ちていた。
「じゃあ一体、何のためにここまで…!あの子には差別もされず、しっかりと自分を持っている子に育てたくて…育てたくてここまで引っ越したのに!」
そのまま続けようとするアンナ氏を制し、座るように促す。一呼吸置いてからルカ氏が代弁するように続ける。
「アンナの話からも大体貴女も予想がついているでしょう。あの子は2歳であの状態になりました。本当に突然、私たちにあの力を見せてきたのです。見た瞬間にもう悟りました。あの能力は人の目に触れてはいけない。万が一それが周囲に見られたら?それこそ差別され迫害されるかもしれない。だから私達は人目につかないここまで来た。私達はあの娘を、自立できるようになるまでしっかり育ててあげたいのです…」
「なるほど、事情は把握しました。この能力はまだ判明してない部分も多い。その家族としての判断は最良であったでしょう。」
家族。羨ましい限りだ。私の家庭とは違い、しっかり子の事や将来の事まで考えている。
少し嫉妬をしてしまうが、私も同じ考えである。保護をするよりは、しっかりこの地で育て上げて行った方が良いだろう。私はある決断をし、向こうに話しかける。
「何も、保護しか手段がないとは言っていません。私がこの地域に滞在し、サーシャちゃんを、監視する。それならば、今後も変わらずに育て上げられる事が出来るでしょう。」
一瞬両方とも驚いたような顔をするが、すぐに元の顔になり、続ける。
「そんな事…ただでさえ普通ではないのに…あなたを信頼なんて出来るわけが…」
「そもそも、あなたがあの能力の何がわかるというのです。」
「分かります。私も彼女と同じ能力を持っていますから。」
そう言って、私は二人の目の前で薔薇を出現させる。2人が息を飲むのが分かった。
「私は17歳の頃にこの能力が発現しました。そして今の組織に保護され、この能力について研究を進めてきました。先ほどお見せした資料の殆どは私の記録です。」
出現の限界が来たようだ。薔薇の先端が粒子となって宙に舞っていく。
「この能力を持つと社会からどんな目で見られるか、それは私自身もよく分かっています。サーシャちゃんには、そういう苦労をなるべくしないようにしてあげたい、と私個人は思っています。」
すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干す。そして続ける。
「幸いにも、サーシャちゃんは就学前教育を受けていない。それなら、私が家庭教師として毎日訪ねる体にすれば、周囲から怪しまれる事もないでしょう。どうでしょうか?」
向こうは黙り込んでしまった。もうこちらからは何を言っても今の時点では変わらないかもしれない。私がいないところで話し合う必要があるだろう。そう考えた私は名刺を取り出し、資料を片付け始める。
「今すぐ結論を出せ、とは言いません。ただ、サーシャちゃんの今後の事にも関わるでしょう。もし、監視の許可を頂けるなら、どの手段でも良いのでこちらにご連絡を。しばらくはこの近辺に滞在をしていますが、もし連絡が来ないのならば、私はモスクワへ帰る事にします。それでは。」
そのまま私は外へ出ていった。遠くでサーシャが遊んでいるのが見えたが、今は彼女に声をかける必要もないだろう。私は一旦潜伏先の家に帰る事にした。
日も落ちた頃、私は車で2時間ほどかけ、ペルミ市のレストランで食事をしていた。ワインも中々に美味しい。また任務が終わったら行きたい気分だ。
どちらにせよ暫くは潜伏をせねばならないのでこの後食材の買い出しもついでにしようか、と思っていた時、電話がかかって来た。相手は長官。少しだけ落胆をしながらも電話に出る。
「状況はどうだ?」
「彼女の両親と話して来ました。現在、返答待ちです。」
「何と言っていた?」
「向こう側は我々が保護する事も監視をする事も望んでいない様子でした。」
「ナターリア、君はどう見ている?」
「私も少し似ています。保護をするほど緊急性があるとは思えません。しかし、サーシャは年齢の割に持つ能力は強いように感じます。監視は少なくとも必要でしょう。」
「そうか。見解に関しては君の方が専門家であるから任せるが、返答の期限はいつだ?」
「具体的な期限は言っておりませんが、一週間で明確な返答が得られないならば、強制保護も視野に入れておりますが……少し失礼します」
と、そこで携帯に通知が入った。どうやらメールが来たらしい。メールの文面を見て、私は笑顔になる。
「…失礼、強制保護の必要は無くなったようです。」
この後、食材だけでなく学習教材も買う必要がありそうだ。数言、言葉を交わしてから、私は車を走らせ始めた。
翌日。私はマカロヴァ家へ向かっていた。玄関の前に立ち、インターホンを押す。すると直ぐにドアが開いた。向こうにはルカ氏がいた。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。」
「おはようございます。本日からよろしくお願いします。」
そう言って中に入る。そのときに小声でこちらに話しかけて来た。
「娘の事を…よろしくお願いします。」
「任せてください。しっかり、教えていきます。」
リビングでは、昨日私が座っていた位置にはサーシャが座っていた。
「きのうの…おねえさん…?」
こちらを見て少し驚いたような顔をする。多分ちょうど、家庭教師の話をしていたのだろう。
私は荷物を置いて、昨日と同じように同じ目線に立ち、笑顔で語りかけた。
「これからよろしくね、サーシャちゃん。」