ゲームは一日1000円まで (Syraのゲーム備忘録)
EP4
2012/05/03
ターゲットに接触。仲間である、と告げて目の前で能力を使用する。少女の顔が輝いたのを見る限り、この作戦は成功した。
しばらくターゲットと遊んでから、保護者に会いたいと直談判すると、簡単に通してくれた。
彼女の両親に身 分と目的を明かす。
最初の話をしている時点では顔は強張ってはいたが、やはり能力が未知数である事は分かっていたのか、最終的には私へ一任すると先ほどメールが来た。
表向きは家庭教師という形で監視をする形になりそうだ。
「ん…」
窓から朝日が差し込み、私は目を覚ます。
モスクワにいた頃はもう出勤をしなければならない時間。しかし、今はある意味出張中。今から支度をしたところでまだ1時間は余裕がある。後10分くらい寝ようか、と思っていた時。よりにもよって電話がかかってきた。相手は長官。仕方がない、渋々電話に出る。
「…そちらとは時差が2時間あったような気もするのですが・・・」
「私の出勤時間が早いのはキミも知っているはずだが。それで、ターゲットの様子はどうだ?」
「特に変わりはありません。就学前教育の遅れを取り戻すのも順調。特に能力に変化が現れた様子もありません。」
「で、我々の軍事力の足しにはなりそうか?」
「さぁ、今のところはなんとも。ただ、あの子は確実に私よりも強い能力を所持しています。今後も監視や研究は必要でしょう。」
その後もいくつかの状況報告をした後、電話報告は終わった。時計を見ると40分前になっていた。二度寝計画はあえなく失敗に終わったようだ。私は寝間着を脱ぎ支度を始める。
私がサーシャの監視役兼家庭教師となってから二カ月が経過しようとしていた。サーシャには、通常幼稚園で受けるような教育をなぞるカリキュラムを作り、それに加え、私自身が発見した能力のコントロール法なども教えていた。
玄関の前に立ち、サーシャの自宅を見上げる。そして、私はいつものように彼女の家へ入った。彼女は既にリビングで待っていた。
「…あ、たーしゃ、おはよう…!」
最初は私の事をお姉さんと呼んでいたサーシャだが、出来る限りフランクに接していきたいと考えていた私は名前呼びして欲しいという事を伝えた。最初はおっかなびっくりで呼んでいたが、今では普通に呼びかけてくれている。
そんなサーシャに笑顔でこちらも挨拶をする。
「おはよう、サーシャ。今日も頑張りましょう!」
そして、サーシャの自室に向かうのであった。
数時間後。アンナ氏が軽食を持ってきた為休憩する事にした。ホットミルクと自家製のクッキー。どちらも味がくどすぎず、この1ヶ月で何回か出されたことはあるが、飽きる事はない。今度レシピを聞いてみよう、とふと思った。
サーシャは両手でクッキーを持ちもぐもぐとしている。私はホットミルクを片手にここ数時間のプリントを見返してみた。
ちょっとしたクイズ形式になっている教材だが、どれも全問正解。引っ掛け問題も多くあるがそれさえも間違えていない。少し前まで何もしていなかったとは思えないくらいサーシャの飲み込みは早かった。
神妙そうな顔をしていたのか、サーシャがクッキーを食べる手を止めてこちらを心配そうな顔でみている。
「…ターシャ?もしかしてどこか…間違えてた…?」
「あ、そんな事ないわよ。ただサーシャが頭が良いし可愛いな、って思ってただけよ。」
「か…かわ…」
そうからかうとサーシャは顔を真っ赤にして俯く。純粋な子だ。
そんなサーシャを見ながら私はホットミルクを飲み干し次の資料の準備を始めた。私がサーシャ向けに作っている能力の扱い方についてのプリント。私自身の経験やFSBでの研究結果を基に能力の抑え方を噛み砕いて記してある。
実際に効果は出ていて、私たちがサーシャを発見するに至った電波もだいぶ抑えられるようになっている。
サーシャがクッキーを食べ終わるのを見てから、私は声をかける。
「さて、もうそろそろ休憩を終わりましょうか。大丈夫?」
「…うん…!大丈夫…!」
「よし、じゃあ始めましょうか!まずは昨日も言った体の中にある物を…」
授業もひと段落し、今日のノルマはもう達成出来た。時計を見ると予想した終了時刻よりも3時間ほど早い。さて、何をしようか。最近は自宅周辺で遊んでいるが、もうそろそろ街へ連れて行っても良いのではないか。
そんなことを考えながらサーシャの資料を眺めていた時にある事に気がついた。そういえばその時期も近かったか。時間もあるし両親へ直談判してみるか。
「サーシャ、少し待ってて。お父さんとお母さんに聞いて見たい事があるから。」
「…?何を聞くの?」
「少し遠くへお出かけしてもいいか、って。」
私の車は、いつも日用品を買いに行くペルミへ向かっていた。
ルカ氏は最初、私たちが行く事について渋っていた。しかし私が若干押しを強くして説得していたら、まぁ私がいれば安全だろうと判断したのか、結局、許可はおりた。
私の車の隣にはサーシャが座って目を輝かせて座っている。
「そういえば、こうやってお出かけするのって初めてかしら?」
「…ううん。…お父さんと…お母さんが…パリまでつれていってくれたことは…ある…。…このごろは…あんまり…」
パリという事はあの資料にあった写真の時のことか。むしろそれ以外には行っていないという事だろう。
「そう…じゃあ今日は、思いっきり楽しみましょう!」
私はアクセルを踏み込んだ。
その後、私達は公園にある遊園地に来ていた。決して広くは無いが、それでも子供にとっては十分楽しめるものであった。
メリーゴーランド、ゴーカート、さらにジェットコースター、そして観覧車。彼女にとっては初めて見るアトラクションもあるのか、終始キラキラとした顔だった。
そして遊び疲れた後は売店でアイスを買って食べる。ベタではあるが、私の知る普通の家族像はこういうものだった。実際、彼女は楽しんでいる様子で、連れてきて良かったと思えた。
遊園地を堪能した私たちは、ショッピングモールに行き雑貨店やおもちゃ屋を見て回った。ここでも初めて見るものばかりだったようで、あれは何、と何度も私に聞いて来た。
一通りショップ巡りを終え、フードコートで美味しそうにサンドイッチを食べるサーシャに問いかける。
「今日は楽しかったかしら?」
「・・・うん!・・・すごく!」
「そう、良かったわ。今度はお父さんとお母さんとも一緒に来ましょう。」
「…うん!」
嬉しそうに頷くサーシャ。
「あ、そうだ。あなたに渡したいものがあるの。」
と、ここで思い出したかのように鞄から紙袋を取り出し、渡す。
「……?…あけて…いい?」
「ええ、もちろん!」
食べる手を止め、袋を開ける。
「・・・うわあ・・・!」
中には白いポシェットが入っている。そしてチャックの部分にクマのキーホルダーがつけてある。
「一日早いけど誕生日プレゼントよ。貴方に合うものをさっきの雑貨屋さんで買ったの。キーホルダーも一緒につけてみたけど、どうかしら?私とおそろいのものよ。」
そういって私は携帯電話につけたストラップを彼女に見せる。
「・・・うれしい・・・!たいせつに・・・する・・・!」
顔を真っ赤にしながらポシェットを抱きかかえるサーシャ。それを見て、私も頬を緩めながら買っていたハンバーグを食べるのであった。
すっかり日も暮れた頃。サーシャは遊びつかれたのか、助手席で買ったばかりのポシェットを抱えたまま寝ていた。
それを横目に見ながら、私は考え事をしていた。
やっぱり家族の心情としても、能力が発動してからだと、このような人が多い場所に行くリスクよりは人目がつかない場所で成長を見守る方が良いと思う。私だってもし子供がこうなったとしたらそうするだろう。
もし、この子も能力が発動しなかったのなら、休日に家族と出かけ、遊び、楽しむ人生が遅れたはずだろう。それを二年間出来なかった。それなら、今後は私が時々こうして外へ連れて行ってあげたい。それがこの子の為でもあるし、両親も安心できるだろう。
これは、任務ではなく、私情として。私自身がかつて出来なかった事をこの子にはさせてあげたいという感情があるから、らしくない事を考えていたのだろう、だが構うものか。反対されたとしても私は強行する。
そう、決意をしながら私は車を走らせ続けたのであった。