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2012/04/15

この世の中は理不尽だ。私はしっかり働いて来たつもりだ。それなのに、任務と命じられ私はよりにもよってスクスーンまで行く事になった。出発は2週間後。あのク○上司が、掘られれば良いのに。

 

それにしても本当なのだろうか。4歳で能力が発現するなんて。少なくとも前例は無い。私の場合17歳で発現したが最初はコントロールすらままならなかった。そこまで幼いと危険なのでは無いのだろうか。万一の事も考えて眠らせて連行する事も考えた方が良いかもしれない。

とりあえず長期滞在する可能性もあるし明日から準備をせねば。

 

2週間後の4月30日、私はスクスーンまで向かう為ひたすら車を運転し続けていた。

20時間運転し続けるのはさすがにきついので途中1泊する必要があった。

そして翌日、村へ向かう途中でエレメーイ長官から着信があった。一瞬留守電にしてやろうか、とも思ったがここで拒否したところで意味も無いし、ハンズフリーを使い電話に出た。

「私だ。今はどこにいる?」

「目標の村の北西100キロ地点です」

「そうか、対象の村に住居は既に確保してある。スクスーンの警察には国の調査員が滞在すると連絡済みだ。もちろんすぐに保護して帰還する可能性もあるが、今後監視を行う事になるかもしれない。その時はそこを使うようにしてほしい。」

「わかりました。」

「くれぐれも、騒ぎは起こすなよ。」

「承知しております。」

そういうと、すぐに電話は切れる。こういう手回しが一々早いのもあの上司の特徴だ。

私はため息をつき、アクセルを踏み込んだ。

 

8時間後、目的の村へ到着した。村には郵便局一軒と使われているのかいないのかわからないくらい朽ちた教会。近くのスーパーマーケットまでは飛ばしても15分。ペルミ地方の端、と言ってももはやエカテリンブルグの方ではないか。どんだけ最果てなのよ、とうんざりしながらも長官から指定された家に向かう。

 

 

その後、ひとまず荷物を置き、すぐに対象の状況調査を行った。

大体歩いて5分ほど。彼女は外で砂遊びをしていた。身長は1メートルより少し小さいくらい。髪型はロシア人にしては珍しく銀髪。アルビノなのだろうか?

観察している限りだと特に周囲に影響を及ぼしたりはしていないようだ。現時点で悪影響は無いと判断した私は、作戦を立てるために潜伏先へ戻るのであった。このまま闇雲に話しかけても却って怪しまれるだけだろう。

潜伏先はアパートではなく、一戸建ての家だった。まぁ、こんな農村でアパートが建っている方が珍しいのかもしれないが。

それにしても酷い有様だ。国有地に建てられた空き家らしいが、何年も使われていなかったのだろうか、埃が積もりに積もっている。

自宅から掃除用具を持ってきておいてよかった。うんざりしながらも持ってきた荷物をいったん隅に寄せて、すぐに掃除を始めた。幸いにして日没前にはある程度きれいになり、澄んだ空気で夕食を食べる事が出来た。

 

 

 

 

夜8時。時差ボケを治すために、眠い目をこすりながらも私は明日の彼女の接触方法を考えていた。おそらくだが彼女は自分が人と違う事に気づいているのではないのだろうか。そうなると接触するのも簡単になるかもしれない。

 

そのような事を考えていると、突然ドアが強くたたかれ、怒鳴り声が聞こえてきた。

「誰かいるんだろ?ここは国有地だぞ!一般人の滞在は許可されていない!」

 

こんな夜に警察がわざわざ来るだろうか?眉をひそめながらも、念のためエレメーイ長官から渡された資料の一枚を軽く眺めてから、銃を懐にしのびこませ、ドアに向かった。

「おい!誰かいるのは分かってるんだぞ!このまま無視するならこのドアを蹴破る!」

私はドアを開けて、問題の相手を見る。数は3人。残念ながらどれも本物の警官であるようだ。

「おかしいわね。事前に許可はとってあるはずなんだけど。」

ヘタに怯えて隙を見せるわけにもいかないので、とりあえず笑顔で答える。

「へへっ、こっちには何も聞かされてねえなぁ。少なくとも俺らに警備税は届けられていねぇ。」

 

この国にそんな税は無かったはずだ。あぁ、そういうことか。要するに賄賂が欲しいと。腹は立つが下手に逆らって騒がれたり悪評を垂れ流されでもしたら監視もロクにできないだろう。ここは従う事にした。

 

「ごめんなさい。私もうっかりしていたみたい。この家があまりにも汚くて掃除に夢中になっててね…。これで許してくれないかしら?」

 

そう言って中央にいるガタイの良い警官に歩み寄り耳元でささやく。それと同時に手元に5000ルーブルをつかませる。向こうはそれを一瞥すると自分の懐にしまってから鼻で笑ってこう続けた。

 

「へっ、残念ながらここまで辺鄙な田舎だと相場が高くてなぁ。まぁ、この金額の10倍くらいなんだよなぁー?」

後ろの警官もそれに続く。

「もっとも、政府で働いている奴ならそれくらい余裕だろうがなぁ!」

 

「ま、もし払えないっつーなら体で払ってくれてもいいんだぜ。」

 

と言い下品な声で笑う。まぁどうせそうなるだろうとは思っていた。この家に政府の女が来ると分かったうえでこんなチンピラまがいの恐喝を計画したのだろう。

自分たちが国家権力であることを盾にし、恐喝紛いの事だけでなくレイプまでもする奴がいるくらいこの国は腐敗していた。私もこうして出くわすまで信じられなかったが。

さて、どうするか。おそらく助けを呼んでも誰も来ない。基本的にこの国はよそ者に排他的だ。ここで向こうが言う5万ルーブルを出しても良いが多分カモになるだけだろう。今すぐにでも張り倒したいが、とりあえず笑顔で対応を続ける。向こうが仕掛けてくるのを待つ。

「ごめんなさい。今は持ち合わせがないの。今日は帰っていただけないかしら?ここで大声を出して騒ぎになっても困るでしょ?」

そう煽ると向こうは顔を見合わせて大笑いした。そして、真ん中の男がこちらの肩をつかむ。

 

「なぁーに、心配ないさ。もしお嬢さんが大声を出しても誰も気にしないさ。」

 

 

誰も気にしない。私が一番嫌いな言葉だ。私が幼い時、ずっと投げかけられてきた言葉。親にも、周りの人にも、助けを求めても、無視され続ける。この国は自分に不利益な事はしない。だから私はずっと一人でいた。誰にも期待せず。ようやく見つけた場所でさえ私は一人でいた。

だからこの機関に拾われた時も何も期待していなかった。利害が一致したから雇われた。そして自分のやるべきことをやる。それだけだ。

無言を同意と受け取ったのか、最初の奴が私の胸を触ろうとする。私は、そいつの手をつかみ、そのまま表へ投げ飛ばした。

「うわぁああ!?」

中央の警察は無様な声を出し、通りの柵にぶつかり、昏倒した。暫く起き上がることは出来ないだろう。

「こ、このアマ・・・!」

左側にいた二人目が殴りかかってくる。でもまともに訓練もしていないのだろう。隙だらけだ。私はその腕をつかみ、鳩尾を力いっぱい蹴る。

そのまま首を殴打すると、二人目は気を失った。

「な・・・なんだこいつ・・・!」

右側にいた三人目がこちらに銃口を向け発砲する。手が震えているからか照準が合っていない。避ける事は容易だったが壁に穴があいてしまった。修繕して近くに花瓶でも置けば目立たなくなるだろう。そんな事を考えながら、私は一気に間合をつめて右手を蹴り上げ、銃を手から落とす。

そして、足を払い転倒させた後、三人目の頭に銃を突きつける。

「ひ、ひぃ・・・!」

「女だからって、舐めないでもらえるかしら?」

「な、何だお前・・・」

痛みが治まってきたのか、一人目が驚愕した声で聞いてくる。

「少し格闘技が使える、通りすがりの家庭教師よ、クルティシェフ巡査長? それとソコロフ巡査。」

「な・・・・」

何故自分達の名前を知ってるのか、という表情でこちらを見てくる。

「それとそっちはロディナ巡査かしら?ダメよー、しっかり訓練は受講しないと。コストリコフ指揮官に言っておかないとねぇ。」

顔が青ざめていくのを見るに恐らく向こうは知っているのだろう。いい気味だ。

「あ、あなたは・・・」

表向きは政府の人間という事になっているが、こいつらにはここで身分を明かした方が良いと思い、表向きの身分証を出す。

「FSBの捜査情報局分析局のナターリアよ。今日から無期限でここで調査を行う事になっているわ。」

「F・・・FSB!?」

「あ、もしかしたらあなた達には馴染みが無いかしら?まぁいいわ。さっきの金は別に持ち帰ってもかまわないわ。私の事を周囲に言わないで、今後一切こちらに関わらないと誓えるなら、別に大事にするつもりは無いし、ここで貴方達を殺す手間も省けるわ。さて、どうするつもり?」

「っ・・・!ち、ちかいます・・・・!」

「そう、懸命な判断ね。」

私は銃を下ろし、失神している二人目を指差し

「ドアが閉められないから、あれを持ち帰ってもらえないかしら?」

二人は完全におびえきった表情で二人目を抱え、そのまま逃げていった。

 

 

「・・・まさか長官から貰った資料が役に立つとはねぇ・・・」

上手くいってよかった。長官から渡された資料の中には、管轄している警察官の顔写真と名前、それとそれぞれの上官の名前が書かれていた。私に内務省の人間へクレームを入れる権限は無いだろうが、ハッタリとしては十分だったのだろう。

あの人は、本当に手際が良い。あまり好きではないがおかげで助かった面もある。

「それにしても・・・完全に孤立するわねぇこれは・・・・まぁそっちの方が都合が良いか・・・」

 

私は溜息をついて、接触方法を考える作業の続きに戻るのであった。

EP2

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